鷺と雪
北村 薫
文藝春秋 刊
発売日 2009-04
直木賞の名に足る、日常の謎の傑作 2009-11-15
とにかくコージーミステリに登場する様な痛快なキャラクターと、それとは対極的なゴシック小説の如く壮麗な表現が際立つ、何とも妙味のある作品群。どれも、北村薫という作家の個性がみなぎった出来映えになっている。
エンタメとしては「獅子と地下鉄」が最もよかった。日常の謎、アクション、人情話。これらがこれだけ巧く活かされていればケチのつけようがない。ベッキーの大立ち回りに胸を躍らせながら、「ライオン」の真相にホロリ。全く以て無駄がなく、物語として円熟している。
文学としては一も二もなく「鷺と雪」だ。およそ華族らしくない立ち居振舞いをしながらも、凛とした一面も持つ英子が可笑しい。一方で、能楽と英子の夢の融合の賛嘆たる美しさと、英子の恋の前に屹立する2・26事件の非情さは壮観だ。これらが矛盾なく共存しているのには、見事としか言いようがない。
北村薫には余りに遅すぎた感のある直木賞。だが、本作での受賞となったことは、著者にとっても読者にとっても、決して悪いものではないのではなかろうか。
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